特集:ネットのコミュニケーション15年、得たもの、失ったもの、求められるものインターネットはこの15年でシステム、サービスともに大きく進歩しました。それにあわせてネット上でのコミュニケーションのスタイルも様変わりしています。今回はメルマガ創刊15周年記念特集として、インターネットの進歩とともに発展したネットコミュニケーションの変遷を振り返りながら、私たちが得たものと失ったもの、そして今後求められるものは何かを考えます。 <システムやサービスの進化>2000年から2015年の間に、インターネットはめざましい発展を遂げました。5年ごとにシステム、サービスの移り変わりを振り返ると、その進化がよくわかります。 ● 小型化していくネット情報端末 メルマガを創刊した2000年は、パソコンがインターネットに接続できる機器の主流でした。ネットが利用できる携帯情報端末としては、モデム内蔵型のPDAと呼ばれる携帯情報端末があったくらいです。 2005年になると携帯電話とiモードが生活に溶け込み、2人に1人は携帯電話を持つほどに普及しました。全国どこにいても携帯電話から通話やメールの送受信ができる環境が整い、日本型の携帯電話と関連サービス事業は最盛期を迎えていました。 2010年にはスマートフォンの急速な普及で携帯電話の市場が様変わりし、タブレット端末の登場でノートパソコンの市場も激変させました。外国製の端末が日本を席巻し、従来の携帯電話はガラケーと呼ばれて肩身の狭い存在になっていきました。 そして今、ウェアラブル端末が新たな革新をもたらそうとしています。時計型の端末はその先鋒として注目を集めています。 この15年で、ネットに接続できる機器はどんどん小型化していき、持ち運ぶ機器から身につける機器へと変わろうとしています。それはネットのコミュニケーションのスタイルにも影響していくのは間違いないでしょう。 ● 自宅から飛び出したインターネット環境 2000年当時はブログはまだ開設サービスがなく、個人での情報発信はもっぱらホームページを自作して公開するのが一般的でした。ネットのコミュニケーションも、掲示板、メーリングリストが中心でした。携帯電話はiモードがサービスを開始したものの、データ通信よりも通話目的で使われていました。つまり、ネットを使った情報発信や交流は家の中にいて、机の上に置いたパソコンからするのが基本だったのです。 2005年ごろになると、FOMA回線の整備と高速化が進み、携帯電話でのコミュニケーションが活発になっていきました。カメラで撮影した写真を送ることも手軽にできるようになり、掲示板への投稿も携帯電話からする人が増えてきました。 2010年をすぎるとスマートフォンとLTEが登場し、これまで自宅でブロードバンド回線を使わなければできなかった高速インターネット環境を、外でも利用できるようになりました。外出先で撮影した動画を現場から送信して友達に見てもらうといった新しいコミュニケーションの形も生まれたのです。 パソコン主流の時代は、ブロードバンド回線で「おうちでインターネット」をするのが最先端の活用法でした。今はモバイル端末とLTEがそれを引き継いでいます。インターネットは家の中から外へ行動範囲が広がり、より機能的に変わっていったことがうかがえます。 ● つながりのもてるサービスの登場で情報発信力が強化 一方、サービス面ではソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の登場が、インターネットのコミュニケーションに大きな変革をもたらしました。 従来のメーリングリストや掲示板では、場を作ってそこに人が集まり交流をしていました。これに対して、SNSは、どこかに人が集まるのではなく、一人一人の交友関係をつないでいく新しい交流の形を生み出したのです。 SNSは、友人を通じて新たな友人とのつながりをもつ機会を与えるだけでなく、友人から送られてきた情報を自分の友人に転送して口コミのように広めていく新たな情報発信の手段も作り出しました。その原動力となっているのが、Facebookの「いいね!」ボタンのようなソーシャルボタンです。ソーシャルボタンにより、情報をつながっている人に簡単に広げていくことができようになったのです。 スマートフォンとアプリでSNSが気軽に利用できることから、SNSはネットでのコミュニケーションの主流となりました。大学の講義では、メーリングリストや掲示板は原始的なコミュニケーションとして扱われているほどです。 <進化で得たもの>インターネットで生まれた新たシステムやサービスは、ネットのコミュニケーションの形を進化させました。今では当たり前と感じる恩恵も、いざ振り返ると時代の進歩から生まれてきたことに気がつきます。 ● 気軽にメッセージを送れる快適さとスマートさ 友人に何かを伝えたいとき、今ではスマートフォンやタブレットを手に取り、指先でアプリを起動すればすぐにメッセージを送れます。通知設定さえしておけば、メッセージが送られてきたときにチャイムを鳴らすこともできます。パソコンでインターネットをしていた時代は、電源を入れてOSが立ち上がるまでに長い時間がかかりました。そして、マウスを使ってメールやブラウザを起動してようやくメッセージの送受をしたものです。 手間や時間をかけずに簡潔に物事を済ませることを「スマート」と呼んでいます。現代ではスマートなメッセージのやり取りができるようになりました。これはネットコミュニケーションで最大の恩恵といえるでしょう。 ● 仲間とのつながりを常に保てる環境 SNSで友達登録をすれば、以後は音信不通になることはありません。そして、友人からの投稿から近況を知ったり、コメントをつけて親睦を深めあったりもできます。メールではアドレスが変わったときに相手に知らせなければ、その後の連絡ができませんでした。 仲間とのつながりを常に保つ環境は、15年前では実現できなかったでしょう。 ● 顔文字やスタンプを使った自己表現 顔文字文化の発展もネットコミュニケーションに大きな影響を与え、今ではなくてはならない存在です。文章を打ち込むよりも入力が簡単なので、携帯電話やスマートフォンではついつい多用してしまいます。顔文字は、言葉では伝えにくい自分の気持ちを代弁し、コミュニケーションを円満にする潤滑剤としての役目を果たしています。 そして、LINEからはじまったスタンプは表現力をさらに向上させました。スタンプは、顔文字のように文字を組み合わせるのではなく絵で表現するので、感情や意志をより明確に伝えられます。愛らしいキャラクターをデザインしたスタンプは相手に好印象を与え、メッセージのやり取りに花を咲かせます。 顔文字もスタンプも、この時代になかったらコミュニケーションが成り立たないと言い切る人もいるかもしれません。 <進化で失ったもの>ITは、ネットコミュニケーションにさまざまな恩恵をもたらしました。その一方で、道具やサービスに依存するあまり、気がつかずに失っているものもあります。 ● 国語力全般 メーリングリスト、掲示板、SNS、Twitter、LINEとコミュニケーションのサービスが進化するにつれ、相手とのやり取りが短文化していきました。メッセージ簡略化しようと顔文字やスタンプを多用したために、文章表現力が低下しています。同時に、送られてきたメッセージの内容から相手が何を伝えたいのかを読み取る読解力も低下しています。 Q%Aサイトでは、質問と回答がかみ合わないやりとりが目立っています。質問する側の文章が読みにくく、内容が理解できないこともありますが、回答する側も読解力の低下で推察する力が十分備わっていないように思えます。 国語力はコミュニケーションに不可欠です。このままおざなりにはできません。 ● 相手と顔をあわせた会話の機会 インターネットが普及するにつれ、仕事もプライベートもメールを使うようになりました。そして、Facebook、Twitter、LINEといったコミュニケーションのツールとスマートフォンが広まると、たとえ相手が近くにいてもこうしたツールでやりとりするのが日常化しています。気がつくと、顔をあわせて話をする機会を自ら作ろうとしなくなっています。 ネットでのコミュニケーションは直接相手に言いにくいことでも口に出せてしまう性質があります。それをよいことに、相手を目の前にしてはけっして言えないような心ない言動を浴びせる行為が横行しています。 現代では、顔をあわせてのコミュニケーションを避ける風潮が浸透しつつあります。このまま対面しての会話の機会がなくなっていけば、ネットのみならず日常生活の対人関係にも支障をきたします。 ● 現実世界との接点 現実との接点を断ち切り、ネットにのめりこんでしまうと独りよがりになりがちです。周囲に注意してくれる人がいなければ歪んだ感情や思想が膨れ上がり、物事の善悪を見失います。その結果、日常生活でトラブルを起こし、時には警察沙汰になるような事件を引き起こします。 コミュニケーションのサービスが増える一方で、現実との接点がなくなっていくことへの危険が懸念されます。 <今後求められるもの>ネットのコミュニケーションを便利にするシステムやサービスは急成長しました。対照的に、これまで日常生活も必要なコミュニケーション力が低下しつつあります。 ネットでのコミュニケーションを利用していく上で、私たちが取り組むべき課題を列挙してみました。 ● 論理的思考力の向上 ネットでは文字のコミュニケーションは今後も続くでしょう。相手と以心伝心がきちんとできるようにするためには、筋道を立てて論理的に伝える文章力は欠かせません。自分の伝えたいことを頭の中で整理し、順を追って話を進めていく技量を身につけることが必要です。 論理的に伝える技量は文字でのコミュニケーションだけでなく、会話でも求められます。 ● 感情任せや衝動的な行動の自制 インターネットは大勢の人が利用しています。軽はずみな言動や行動は騒動を巻き起こし、人の心を傷つけます。感情任せに書き殴る行為や、事実確認をせずに人から伝え聞いた情報を振れ回す行為は慎んでいかなければなりません。 TwitterやFacebookは、リツイートしたり「いいね!」ボタンを押すだけで情報が広まっていきます。だからこそ、その場感情での行動は自制していく努力が求められます。 ● 日常生活のマナーやモラルの認識 写真や動画の投稿で起きるトラブルは、自己中心的な考えが発端となっている場合があります。日常生活のマナーやモラルをふまえた行動は一層重要になるでしょう。 あわせて、マナーやモラルを学ぶ機会を増やしていくのも必要と考えます。 ● 情報発信の責任の自覚 自分が発信した情報はインターネット中の人に知れ渡ることを一人一人が自覚しなければなりません。どんな内容であれ、一度投稿すれば、その言動はすぐさま広がっていきます。軽率な言動は反感を招き、炎上騒ぎを引き起こします。 情報が拡散していくスピードは今後ますます早まっていくでしょう。自分の言動は責任を持ち、安易な発言をしないよう気をつけていくことはこれまで以上に重要です。 ● 他人への思いやり インターネットのコミュニケーションで一番の御法度が、他人への誹謗中傷です。勝手な思い込みやその場感情で言葉の暴力を浴びせる行為は断じて許されません。 相手がどんな立場の人であろうと思いやる気持ちを持つことを私たちは忘れてはなりません。今後のネットコミュニケーションの発展を左右するのは、一人一人が思いやりをもてるかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。 この15年を振り返ると、人とのコミュニケーションは実生活よりもネットに依存しているように思います。そのせいか、顔を向き合わせていたからかそ体得できたコミュニケーション力が低下しているのを感じます。現代では、ささいな出来事がきっかけで人間関係が崩壊する出来事も珍しくありません。私たちは人とのコミュニケーションで忘れかけた大事な要素を今一度見いだし、それを今後に生かしていくことが求められます。
2015年4月29日発行 第369号
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