コラム:人の命を軽んじる自己責任は語るなかれ命の尊さを考えない自己責任の言動に意見を述べたく、コラムとして綴ります。 ● 自己責任と唱えてよいものといけないもの 自己責任は20年前くらいから声高に主張する人が増え始めました。自分の意志でとった行動は自分で責任を持ち、たとえ不本意な結果になろうと無条件に受け入れるべきというのが自己責任の考え方です。たとえば、投資やギャンブルで失敗して一文無しになったとしても、他人のせいにしてはいけないのが自己責任の典型例です。当人が腹いせに誰かに八つ当たりでもすれば、周囲から非難を浴びるでしょう。 全財産を失うような結末であれば、当事者が自己責任を受け入れたあとに挽回ができます。しかし、命に関わるような自己責任はそうはいきません。当事者が命を失えば挽回はできないからです。 当事者が自ら取り返せない自己責任には、第三者が頭ごなしに自己責任を持ち出してとやかく非難してよいものではありません。 ● 当事者と縁もゆかりもない人が自己責任で戒める資格はない 身の危険を承知の上で選択した行動にも自己責任は発生します。だからといって、縁もゆかりもない人が結果論で自己責任を振りかざし、これ見よがしにとがめるのは許されるでしょうか。 当事者が死と隣り合わせな状況に陥ったとき、知人や親戚は不安に打ちひしがれています。そのような中で、何の縁もない赤の他人が自己責任を唱えればどんな思いをするでしょうか。何の筋合いがあって人をとがめるのかと憤りをあらわにするはずです。余計なお世話を通り越して、不謹慎と怒鳴り返したい思いでしょう。 生死の関わる出来事に、第三者が自己責任を持ち出して非難する権利や資格はありません。それを自覚せずに、評論家気取りになって自己責任を受け入れるのが当然と意見するのは傲慢です。 ● 自己責任を盾に死を宣告するのは許されない言動 自己責任という言葉は、他人が自らの落ち度で招いた結果を一方的に批判できる絶好の美談として扱われがちです。そのせいか、自己責任を唱えれば、博識のある評論をした気分に酔いしれます。しかし、自己責任を口実にして、他人に死ねと言わんばかりの批判を浴びせるのであれば、それは心ない無神経な行為です。 どんなことであれ、人に死ねというのは道徳として認められません。そればかりか、人の命を軽んじる卑劣な言動です。人に対して平然と死ねと言っても罪悪感がないのは周囲から白い目で見られ、人としてとがめられます。命を軽んじたり、粗末にするような言動は当事者と関わりのある人たちを悲しませるだけです。たとえ相手に落ち度があっても、命と自己責任をはき違えた言動は慎まなければなりません。 ● 命を粗末に扱う自己責任論者はテロリストと同じ テロリストは他人の命を奪うことに何の後ろめたさを持っていません。自己の思想と目的のためなら、残忍な殺りく行為を平気でやってのけます。 人の死を哀れみない自己責任論者は、テロリストと同じです。宗教的思想を都合よく解釈して凶器で殺害するのと、自己責任という反論の余地がない正論を大義名分にして言葉の暴力を行使するのは本質的に変わりありません。自分は身の危険が及ばない安全な場所にいて、他人事の無責任論を吐いていることに気がついていないのなら、思い上がりの恥知らずです。 ● 自己責任を口実に人の不幸を笑うは最低の人間 ネットでは、人が不幸のどん底に陥ったニュースがあると自己責任論を持ちだして、一方的に当事者を罵るコメントを書き殴る輩を多く見かけます。当事者を目の前にしないのをよいことに、「悪いのはお前なんだ。甘ったれるな」などと、よくも恥じらいなく言えるなと驚くばかりです。こうした書き込みをする人は、自分は誰からも反論を受けることのない正論を盾にして人の不幸をあざ笑う不謹慎な振る舞いに、罪悪感はおろか後ろ髪を引かれる思いすらないのでしょうか。 他人事にしゃしゃり出て、人格者や見識者気取りに自己責任論を持ち出して相手を悪者扱いにするのは、当事者やゆかりのある人だけでなく、書き込みを見た人を不愉快にするだけです。ネット上ではなく、当事者を目の前にして同じことをすれば、周囲の人から殴り飛ばされるでしょう。そのときに大けがをしても誰も同情はしてくれません。なぜなら、それは自分が声高に唱えた自己責任そのものだからです。無責任な書き込みをする人は、人前で暴言を吐くだけの勇気も意気地もないでしょう。そんな内弁慶の自己責任論者は人として最低のそしりを受けるだけです。 ネットでは無責任な言動で人をおとしめていることに当人はなかなか気がつきません。周囲から共感されれば有頂天になり、悪らつな言葉を並べるなどさらにエスカレートします。その場感情に流され、命の尊さを忘れた言動はくれぐれも慎むよう、一人一人が気をつけてほしいと願います。
2015年1月27日発行 第366号
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