コラム:アイドル総選挙のようにはいかない国政選挙のネット投票
低い投票率を改善するにはネットでの選挙活動の解禁だけでなく、ネットを使った国政選挙の投票を望む声も聞かれます。しかし、国政選挙のネット投票はさまざまな問題点があり、不可能といってよいほど実施はきわめて困難です。 今回は国政選挙をネットで実現できない背景をふまえ、自ら投票所に足を運び、国政選挙に参加する大切さを述べます。 ● 国政選挙では立会人が不可欠 選挙は単に票を入れるだけなので、自宅のパソコンや外出先からスマホで投票できたら便利と考えるかもしれません。しかし、国政選挙は、確定申告の電子申請や、アイドルのファン投票のように専用サイトにアクセスして簡単に処理できると考えるのは軽率です。 国政選挙は厳正に行われなければなりません。有権者が他人からの干渉を受けずに公正な投票を行うには立会人が不可欠です。投票所に行くと選挙管理員のボランティアが名簿をチェックして発券機から投票用紙を手渡したり、投票状況を監視しているのは不正投票を防ぐ上で重要な役割を果たしています。厳正な投票をするためにはこうした立会人を簡略化することはできません。 ● 投票所以外の場所から投票できたらどうなる? 投票所以外で投票ができれば便利と思うでしょう。しかし、それではあらゆる不正行為がまかり通ります。 ネットで投票を行うには、有権者一人一人にアカウントを発行するかコード番号を発給し、専用のサイトにアクセスして投票作業をすることになります。しかし、これではどんな不正もできてしまいます。 まず思いつくのがなりすましや代理投票です。自宅では家族の誰かが勝手にまとめて投票できてしまいます。また、特定の施設で生活している人の場合、従業員が投票用のコードを回収して特定の候補者に投票することすらできてしまいます。一括投票が組織的に行われれば大規模な組織票の公然化につながり、国政選挙の信頼を損ねます。 専用コードを発行しての投票システムでは、コードの不正入手も横行します。ネットゲームで禁止されているアカウント販売やアイテムの不正取引のような手口を模倣して、ネットオークションだけでなく裏サイトや闇市場での現金取引が行われれば票を金で買うことが公然とできてしまうため国政そのものが腐敗します。 さらに昨今のやオンラインバンキングの口座情報を盗み出す手口と同様に、投票コードを狙ったフィッシング詐欺やウイルスによる不正プログラムの感染被害も考えられます。コンピューターの遠隔操作でもされようものならなおさら危険です。 投票所以外の場所から選挙の投票を行おうとしても、これまでにインターネット上で起きている諸問題と照らし合わせると実現困難な点が数多く浮かび上がってきます。 ● 機械的に個人を識別できない限り国政選挙のネット投票は不可能 国政選挙のネット投票に必要な条件は、情報機器から確実に有権者一人一人を識別し、かつ監視する技術がなければ実現できません。指紋や生体認証を取り入れればと考えるかもしれませんが、投票の操作をしている人の傍らで誰かが指図したり干渉すれば不正行為がまかり通ってしまいます。 国政選挙のネット投票は技術的に不可能というのが実状です。SF小説やアニメで描かれるようなコンピュータに人々が完全管理される社会でも形成されない限り実現は難しいと言えるでしょう。それはあまりにも非現実的です。 国政選挙は利便性よりも厳正さが優先されなければなりません。それだけに国政選挙の投票には、立会人と投票所を切り離すことはできないのです。投票所へ足を運ぶのが面倒であるからといって、利便性からネット投票を望むのは好ましいとは言えません。 ● 投票所に足を運んで国政選挙に参加しよう ここ数年にわたり、政権交代や世界経済の悪化による景気の後退、さらには東日本大震災といった大きな出来事が立て続けに起こりました。この難局を乗り切るには、有権者一人一人が政治を他人任せにするのではなく、自ら国政選挙に参加して一票を投じていくことが大切です。それは国民として果たすべき役目でもあります。一票を投じたい人物がいないといった政治家や政党への不信は確かにあります。しかし、世の中なんて変わらない、自分の一票で何も変わらないと唱えていても何も生み出しません。まして、他人が投じた選挙の結果やその後の政策に不平不満を吐き捨てても、棄権した人の声は誰も耳を傾けてはくれないばかりか、無責任のそしりを受けます。 ネットでもメディアでも指摘されていますが、国政選挙は投票率が低ければ組織票の影響力が大きくなり、民意が反映されない結果を招きます。選挙制度を問う声もありますが、それ以前に有権者がきちんと投票するのが先決です。 国政に参加することは有権者の大切な役割です。若者のみならず、一人でも多くの有権者が国政選挙の投票日には投票所へ出向き、自分の意志で一票を投じることを望みます。
2013年1月18日発行 第342号
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