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特集:メーリングリストこの一年2011

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 2011年3月11日午後2時46分、東北太平洋沖を震源とするM9.0の超巨大地震が発生しました。高さ10メートル以上の大津波が東北沿岸部を襲い、2万人近い死者・行方不明者を出した震災は東日本大震災と命名され、誰しもが生涯記憶から離れぬ戦後最大の自然災害となりました。さらに、東京電力福島第一原子力発電所では、津波の浸水で冷却機能を失い、原子炉内の核燃料棒が溶け落ちて水素爆発を引き起こし、原子炉建屋が破壊され放射性物質が広範囲に飛散する大事故へと発展しました。

 東日本大震災後、「がんばろう日本」を合言葉に日本中が復興へ向けて動き出す中、国会では管内閣への不信任決議案を提出して政争に明け暮れる政治家や、言葉狩りをして国民感情を煽り大臣を辞任に追い込むマスコミに不信と批判が投げかけられました。被災地や被災者をそっちのけに非建設的な謀略劇を見せつけられたのは腹立たしい出来事でした。

 今回の震災で私たちは生活の中でたくさんの課題に直面しました。鉄道の運休による帰宅困難、電力の供給不足による計画停電や節電、そして放射性物質の除染やエネルギー政策のあり方など、すぐには解決できない問題とどう向き合うか、一人一人が考えていかなければならなくなりました。

 一方、IT分野ではfacebookが脚光を浴び、日本でも海外版SNSへの関心が高まりました。そして、スマートフォンやタブレット端末の普及が加速し、Evernoteといったクラウドサービスも身近になりました。そんな中、ITの道先案内人ともいうべきアップルの元CEO、スティーブ・ジョブズ氏が56歳でこの世を去った知らせは世界中に悲しみを与えました。

 前置きが長くなりましたが、例年恒例のメーリングリストの一年を振り返る本特集。今年は未来に向かって走り続けるfreemlと、古きものに決別を告げた楽天の事業転換が大きな出来事でした。

<メーリングリストにまつわる出来事>

● スマートフォンとSNSに対応し攻めのサービスを見せたfreeml

 メーリングリスト開設サービス大手のfreemlは、昨年に自社サービスを利用できるスマートフォン向け専用アプリを公開したのに続き、NTT docomoの携帯電話に対応したiアプリ「freeml for iアプリ」を配布しました。さらに、スマートフォンの画面サイズに対応したウェブサイトにも力を入れ、携帯端末での利便性を高める取り組みに積極的な姿勢を見せました。

 また、facebookなどのSNSやブログからメーリングリストに登録できる機能も追加しました。ひとつは、メーリングリスト登録専用メールアドレスの発行機能です。twitterやfacebookに記載することで簡単にメーリングリストへの登録を促せるようになりました。もうひとつは、ウェブサイトやブログに設置できるメーリングリスト登録フォームの復活です。デザインも新たにブログパーツとして提供し、ウェブサイトやブログからメーリングリストに登録手続きができるようになりました。

 今年のfreemlはスマートフォンなど携帯端末への対応や、facebookなどのソーシャルメディアとの連携を強化し、時代に沿ったサービスを進めていく攻めの姿勢をアピールしました。

● 旧システムの継続に見切りをつけた楽天

 対照的に、楽天が運営するポータルサイト「Infoseek」は長年に渡るメーリングリスト開設サービスの廃止を決定し、2012年5月末をもって「Infoseekメーリングリスト」を終了すると発表しました。

 これまで運営してきたメーリングリストのシステムは、10年ほど前にfreemlと肩を並べたメーリングリスト開設サービス専門のベンチャー企業「インフォキャスト」が開発したもので、一部デザインは変わったものの中身は一切改編されずに運用してきました。しかし、システムの老朽化や採算性などを考慮した結果、維持継続は見合わないと判断した模様です。楽天はメーリングリスト以外にもホームページ開設サービスも廃止しており、既存サービスを整理する方針に舵を切ったと言えます。

 時代を走り続けるfreemlと古きものに節目をつけた楽天の事業展開は、共に歩んできたメーリングリストビジネスの方向性に明確な違いを見せました。今後、Yahoo!グループのメーリングリストサービスがどうなるか注視したいところです。

● ソーシャルメディアの乱立で見えてきたメーリングリストの役割

 今年はfacebookGoogole+など世界規模で展開する大型SNSが大きく躍進しました。日本ではSNSといえばmixiと定番が決まっていましたが、そのmixiも海外勢の日本進出に苦戦を強いられています。

 時代はtwitterやSNSなどのソーシャルメディアがコミュニケーションツールの中心的役割を担いつつあります。メーリングリストはかつては大勢の人が集まるコミュニケーションに欠かせないツールとして活用されてきましたが、ソーシャルメディアの登場で影が薄くなりました。

 ところが、相次ぐソーシャルメディアの登場が新たなメーリングリストの存在意義を見いだしつつあります。

 ソーシャルメディアが乱立すると、ユーザーは自分の使いやすいサービスに主軸を置いて活動します。そのため、複数のソーシャルメディア内で同じテーマのコミュニティを運営しても一同に集まる場がありません。他のソーシャルメディアのサービスに馴染めない人にとっては複数のアカウントを取得してそれぞれのサービスの使い方を習得するのが億劫になります。

 この複数のソーシャルメディアのメンバーを一堂に集めることができるのがメーリングリストです。メールという端末共通のツールを用いれば、他のアカウントを取得ぜずにソーシャルメディア内の仲間を一つの場に集めて交流を図ることができます。電子メールは特別なアカウントをつくって操作方法を覚える必要がありません。 電子メールを応用したメーリングリストはソーシャルメディアをつなぐ新たな活用が期待できます。

 国内ではmixiの一極集中で、コミュニケーション手段としての主役が取って代わられました。今回のソーシャルメディアの乱立は、改めてメーリングリストの価値を見直すきっかけになるかもしれません。ソーシャルメディアをつなぐメーリングリストの活用については折々特集記事として取りあげたいと思います。

<そのほか気になった話題>

● メルマガサイトは著名人発行の有料版に注力

 メーリングリストと同じく、メールを扱ったビジネスであるメールマガジンにも変化がありました。これまでメルマガといえば誰もが自由に無料で発行し、広告収入で運営会社が収益を得ていました。しかし、最近では一般の人の活動はブログやソーシャルメディアに移り、メルマガの質の低下や発行部数の減少が顕著になってきました。

 そこで、メルマガ各社は有料メルマガの発行に力を入れ始めました。メルマガ運営の最大手まぐまぐは、ジャーナリストや芸能人など各界の著名人を起用して有料のメルマガ発行と販売を積極的に進めています。また、オプトインメールで実績のあるアルトビジョンは、ビジネス向け有料メルマガサービス「ビジスパ」の事業を分社化し、新会社を設立しました。

 メルマガ発行ビジネスは発行部数から質で勝負する時代へ、そして来たるべく電子書籍を意識した事業へ突き進もうとしています。

● 求められるIT企業のモラル

 今年はスマートフォンが急速に普及し、スマートフォン向けのアプリも次々と開発されました。しかし、アプリの中には利用者が気がつかずに携帯端末の位置情報を運営会社のサーバーへ送信するものがあり、アプリ利用者から批判の声が上がりました。

 その代表的なものがカレログ事件でした。カレログは、特定の人のスマートフォンに独自に開発したアプリをインストールしておくと、所有者本人が気がつかずに端末の位置情報や通話記録をを収集して運営会社のサーバーに送り、第三者がその情報を閲覧できるというサービスでした。しかしこのサービスは、端末所有者の同意なしに第三者が所有者の行動を逐一把握できるため、プライバシーの侵害だけでなく悪用すればストーカー行為にもつながるだけに、運営会社に非難が集中しました。現在は、アプリやシステムそのものが改められ、端末所有者に配慮したサービスを提供しています。

 また、かつて携帯向けメーリングリストを提供していたミログは、端末情報をもとに広告配信を行うAndroid用のソフトウェア開発キットを配布しました。ところが、それを組み込んだアプリを使用する際、事前に端末情報を取得して外部へ送信する説明が不十分であったため、スパイウェアの疑いがもたれるなどの非難を浴びました。その結果、一連の広告配信サービスはすべて打ち切られました。

 いずれのケースも運営会社が端末の利用者にアプリを通じて端末情報を取得する旨の事前説明と承諾が不十分であったことから、プライバシー侵害の配慮に欠けていたのが問題でした。携帯端末は人が身につけて使う機器です。IT企業は、使用者への配慮を考慮したアプリの開発と、モラルをわきまえたサービス運営が求められます。

 なでしこジャパンのワールドカップ優勝、欧州債務危機、歴史的円高、中東の民主化運動、地上アナログ放送終了・・・。とても語り尽くせぬほど大きなニュースが多かった2011年でした。2012年も「がんばろう」を胸に立ち向かっていくことになるでしょう。


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