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コラム:ネットでの内部告発は英雄か?

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 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に攻撃的な態度を見せた一部始終の映像がインターネットの動画投稿サイトYouTubeに流出した事件は日本中を大きく騒がせました。日本政府が中国への配慮とばかりに公開に慎重な姿勢をとったり、一部の国会議員だけが非公開で映像を見るなどの対応が国民に不満と憤りを募らせ、結果的に海上保安庁職員による流出へと発展しました。映像は投稿元が削除されて消失するのを防ごうとまたたく間に転載され、中には英語の字幕をつけて加工したものまで公開されました。投稿元からの映像は削除されたものの、複製された映像は今でもネットで容易に探し出して閲覧できます。

 ネット上では、映像を流出させた人物を英雄として称賛する意見をあちらこちらで見かけます。単に問題映像を見たかった欲求が満たされた感謝なのか、政府の弱腰な外交姿勢への不満をはらしてくれた喜びなのか、中国の日本に対する傍若無人な態度への怒りへの同調なのか定かではありませんが、多かれ少なかれ政府の対応が国民感情を屈辱的に逆なでしている不満が要因であろうと考えています。

 しかし、私たちは両手放しで投稿者を英雄と称えてよいのでしょうか。単に感情だけで称賛するのであれば軽率です。なぜなら、その場だけの情報や感情に振り回され、目先だけで物事を判断しているにすぎないからです。これでは、中国漁船の船長を安易な超法規的措置で釈放した日本政府の対応と変わらないのです。

 今回のネットへの映像流出は内部告発と同じ行為です。テレビ番組の社会派ドラマで描かれるような感動的な結末を演出するためのシナリオとはまったく違います。国が管理している情報を安易に流出させれば外交上の不利益をもたらす危険性は十分あり得ます。

 内部告発はよほどの覚悟が必要です。自分自身の将来はもとより、家族や同僚、さらには身の回りで交流のある人たちとの関係をすべて犠性にしてでも信条、信念を貫く強い意志がなくてはなりまません。そして、自らの行為がどのよぅな結果を招いてもその責任を負い、法律や規則に基づく懲罰を受ける潔さも必要です。それらがなければ、単に騒ぎを引き起こしただけの無責任な愉快犯にすぎないのです。

 私たちは、内部告発や造反行為の首謀者をその場感情で評価すべきではありません。首謀者がどのような意図で企て、相当の覚悟を決めた上での行動なのかを見極めなければなりません。もし首謀者が自ら起こした確信犯の動機や意義を公の場で訴え、理解されるだけの技量も意志ももたない人物であるならば、私たちは首謀者を英誰として称えてはいけないのです。

 今回の映像流出事件は、組織に対する告発や密告、あるいは造反をネッ卜上で行なえば波止めの利かないほどの影響をもたらすという教訓を与えました。機密情報や公判中の証処がネットに流出すれば短時間で広まり回収は不可能です。幸いにも、中国漁船衝突の映像流出は肯定的な支持を得ていますが、もし国益に不利になる結果を招けばそれこそ一大事です。それだけに、後先を考えない中途半端な正義感だけでの告発は慎しまなければなりません。傍観者である私たちもネットで告発した人を無条件に英雄にしてはならないのです。個人的な視点や感情的な判断をせず、冷静に物事を見据えていくのが大切です。


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2010年11月14日発行 第314号


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