教えて先輩:ネットで歌詞を書いて曲名を聞いたらダメなの?
先に述べておきますが、この手の著作権がらみの話を持ち出すと、神経質、堅苦しい、融通が利かないなど自分に利益となるものは無批判に容認されて当然と唱える人がいますが、それははなはだ見当違いです。最近のネットへの違法アップロードによる著作物の取り扱いが深刻な問題として取り沙汰されており、著作権遵守はネットを利用する一人一人がわきまえなければならない自覚であることをあらかじめふまえておいてください。 ● かつては厳しくとがめられた歌詞のネット転載 インターネットが普及する以前のパソコン通信の時代から、ネットでの歌詞の使用は厳しく取り扱われてきました。とりわけ、歌詞を書き込んで曲名を教えてほしいという発言には、ただちに運営者による削除が入り注意されました。インターネットが急速に広まり、掲示板やSNSがあちらこちらに開設されるとこうした著作物への注意喚起も行き届かなくなり、安易に歌詞を書いてもそれを是正できず、むしろ注意した方が悪いような風潮にすらなっています。この背景には、著作権についての知識が広く周知されていないため、他人の著作物を勝手むやみに扱ってはいけないという自覚意識が薄い現状があります。 ● 知っておきたい著作物の無断複製行為 私たちの生活で、紙に絵を描いたりノートに日記を書いたりすればその内容には書いた人だけが取り扱うことのできる権利が発生します。これを著作権と言います。歌詞や楽譜も同様で、何気なく書いた落書きにも著作権がつきます。著作権のついたものを著作物と言い、著作権者つまり作者以外の人が勝手に扱うことができないよう法律で定められています。この法律がよく耳にする著作権法です。 著作権法では、私的な目的であれば著作物の複製を認めています(著作権法30条1項)。しかし、権利を有する人の承諾なしに無断でコピーして不特定多数の人に配布したり、まして商売に使うことは認めていません。ビデオテープやDVDのラベルに個人で楽しむ以外は無断で他人の著作物をコピーすることは法律で禁じられていますと注意書きがされているのもこのためです。ネットの動画サイトにアップロードするのも、著作物の複製にあたります(著作権法2条1項15号)。市販のDVDソフトやテレビで放映された番組を制作会社やテレビ局の許諾なし動画サイトにアップロードして公開すれば無断複製行為による著作権侵害となるのです。それゆえに「違法アップロード」と呼ばれるのです。 ネットで公開する行為は、著作物をサーバーに複製つまりコピーしているのだという点が気がつきにくく、自分の所有物と他人の著作物の分別がおろそかになるため罪悪感の薄い行為になりがちです。 ● ネットで歌詞を書くと著作権侵害になる? では、曲の歌詞についても同様に考えてみましょう。歌詞も人が作った著作物です。したがって、自分がいかように扱うことはできません。もし、ネットの掲示板などでその歌詞を書いたらどうなるでしょうか。ネットに書き込む行為は、前述したように著作物を無断で複製するのと同じです。そして、その歌詞は自分の著作物ではありません。ということは、無断で人の著作物を複製して不特定多数の人に配布した行為になるため、著作権侵害に抵触してしまうのです。 ただし、これが侵害行為に当たるのは正確な歌詞を書いて寄せられた曲名と合致した場合です。歌詞に間違いがあれば、たとえ曲名がわかっても該当する歌詞を複製したことにはならず著作物の無断複製とはならないという抜け道があります。そのため、必ずしも著作権を侵害するとは限りません。 とはいえ、ネットで歌詞を書けば著作物の無断複製になりかねないのはたしかです。それゆえに、ネットで歌詞を書いて曲名を聞くのはNGとされているのです。 ● 都合のよい拡大解釈に注意 歌詞をネット上で書いてしまうと思いもよらぬ法律違反を招きます。ところが、ネット上では何の根拠もない勝手な解釈をしていかにも容認できるかのような風説やデマが流れています。たとえば次のようなものです。
● 歌詞を書けるのは引用の時のみ ネットで歌詞を書いて曲名を聞くことはできませんが、批評などを目的とした「引用」であれば著作権法で認められています(著作権法32条1項)。ただし引用は、引用する著作物と自分が論述する内容が対(正確には主従関係)になっているのが原則です。また、引用するときは引用元を明記しなければなりません。歌詞であれば曲名と作詞者です。作曲者もあればなおよいです。お気に入りの曲のこのパートが心を打たれたなど歌詞を書かないとうまく説明できないときは引用を使うとよいでしょう。 引用のしかたに関しては以前に特集記事として取りあげましたので参考にしてください。 歌詞を書いて曲名を尋ねると、思いもよらぬ法律違反を犯してしまいます。どうしても歌詞から曲名を知りたいときは、正規に使用許諾を受けている歌詞検索サイトを利用する方法があります。いくつか紹介しますので、一度利用してみるとよいでしょう。 楽譜を手に入れたい人は手軽に購入できる便利なサービスがあります。
山下幸夫著 「最前線インターネット法律問題Q&A集」 (株)情報管理
2010年9月21日発行 第312号
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