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コラム:「人それぞれ」の一言で話を止める人たち

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 ネットでのやりとりに限らず日常生活の会話でちょっとした議論や意見交換をしたいときがあります、たとえば「朝食はごはんがよいかパンがよいか?」、「一押しのレストランはどこ?」といった話題を出して、互いに自分の考えや意見を述べながら有意義な会話を進めていきます。しかし、話を切り出した途端すかさず「そんなの人それぞれ。」と口に出す人が近年急激に増えています。とりわけ10代から20代でこの傾向が強いのですが、年代を問わず「人それぞれ」と言い出してはまるで美談を唱えたかのような態度を表します。しかし、話を持ちかけた側からすれば、せっかくの話題を素っ気ない一言で終わらされてしまい、不愉快な気分になります。「人それぞれ」と言い出した側は不快感を与えていることに気がついていないのです。

 今回のコラムは、「人それぞれ」の一言がもたらす相手への印象と、昨今の意見交換や議論、対話によるコミュニケーション不足の問題点について取りあげます。

● 「人それぞれ」の一言がなぜ不快感を与えるのか?

 ある話題が出たときに、「人それぞれ」と頭ごなしに言われるとなぜ人を不快感にさせるのでしょうか。これには明確な理由があります。それは、その一言でせっかくの話が止まってしまい、続かなくなってしまうのです。そもそも、話を切り出した側はその内容が人それぞれであることぐらい言われなくてもわかっています。冒頭の例でも、朝食にご飯がよいかパンがよいかなど、どちらの意見が優劣をもっているわけではなく、単に他の人の考えや趣向を聞きたいために話を持ちかけているにすぎません。それを非建設的な一言で話を打ち切られれば不快感を覚えます。

 また、「人それぞれ」と唱える人は、いかにも場をきれいにまとめて周囲から喝采を浴びたかのような勘違いをしがちです。いわゆるなんとでも受け取れる玉虫色の結末にしようとしているのです。しかし、せっかくの話題に抽象的な物言いをされれば、話をはぐらかされた気分になります。まして、お互いに議論を白熱させている最中であれば横やりを入れられたのと同じで、せっかくの議論が台無しになります。人それぞれと言い出した側は、誰もがとがめられないあいまいな結論にしようとするばかりに相手に不快感を与えてしまうのです。

● 人それぞれを口に出す人の心理と背景

 では、どうして「人それぞれ」と口に出す人が最近増えたのでしょうか。

 「人それぞれ」の一言で話を止めてしまう言動は、10年以上も前からしばしば見られました。しかし、最近では次のような傾向が強くなっています。

  • 自分の考えが少数意見であれば孤立する不安
  • 自分の考えが他人に逆なでされる心配
  • 誰も傷つかないという勘違いの気配り
 これらに共通しているのは、もし自分が意見を求められたとき人前でそれを述べなければならないのを回避したいという心理です。つまり、自分の意見を口に出すことを何とかして逃げようと、誰も傷つかない言葉を持ち出して話を終わらせたいのです。

 こうした背景には互いに意見をぶつけ合わず、当事者のいない別の場で相手を中傷…批判する風潮が年々強くなっているのが一因と考えています。そのため、自分の意見を出すのを避け、他人にあわせることで自分の身を守ろうとする自衛的な行動が強くなっているのではないかと考えます。もし、自己主張をしてそれが多数派意見でないとすればつまはじきにされて孤立したり、いじめの対象にされるのではないかという不安にさらされます。また、少数意見を口実に他人から批判を受けたり、自分の思い入れをあしらわれるのではないかといった危機感を抱きます。さらには、議論と口論をはき違えて、身の回りの人間関係が悪化するのではという見当違いの気配りをしようとします。これらは、コミュニケーションが不得手で人間関係をうまく築けないためにとってしまう行動ともいえます。

 一方で、人それぞれと切り出す側はたとえ自分の意見があってもそれを言葉にして述べるための技量をもち備えていないのも考えられます。たとえば、自分は朝食はパンが好きだと思っていても、その理由や経緯を整理して人にうまく主張できないのではないでしょうか。そのため、議論や意見交換が始まるとなんとかして終わらせたい逃げ口実で頭ごなしに「人それぞれ」と言い出すのではないでしょうか。特に、考えの異なる人同士が集まる場にいるとその心理が強まり、衝動的に言葉を発するのかもしれません。

 このように、最近の対話によるコミュニケーション力の不足や意見を主張する技量の低下が物事を曖昧にしてはぐらかす行動をもたらし、自己主張を回避する手段として「人それぞれ」と口にする傾向が強まっているのではと考えます。

● 人それぞれという前に自分の意見を述べよう

 どのような背景や理由があれ、最初からいきなり「人それぞれ」と言うのは相手を不愉快にさせる非礼な言動です。特に、議論や意見交換では禁句です。もし、「人それぞれ」と主張したいのであれば、まず自分の意見を述べてからにすべきです。「自分はこういう意見や考えをもっている。でもこの話題に出てくる意見は人それぞれだろう。」と述べればその人自身の具体的な意見も聞けるので意思疎通がかみ合い、コミュニケーションが円滑に進んでいきます。「人それぞれ」と言って自己逃避するのではなく、会話を通じて自分の意見を述べる技量を身につける方がずっと建設的です。

 人との会話において頭ごなしに「人それぞれ」と言い出しても誰のためにもなりません。話の趣旨をないがしろにした非建設的な言動にしかならないのです。話を曖昧にするのではなく、自分の考えをきちんと述べることの方がコミュニケーションにおいて大切です。「人それぞれ」と口に出す前に、ぜひ知ってほしいと願っています。

☆ 新聞社の意見箱に「人それぞれ」についての投書がありましたので紹介します。


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2010年4月26日発行 第307号


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