よもやま話:ネットゲームは新たなコミュニティになれるか?一方、ネットゲーム産業は年々急成長を遂げ、新たなコミュニティサービスとして注目されつつあります。
● ネットゲームとは ネットゲーム(オンラインゲーム)はプレイステーションのような家庭用ゲーム機と市販ソフトを使って一人でプレイするのではなく、ネットを通じて複数のプレイヤーと同じ舞台で対戦したりしながら楽しむゲームです。ジャンルも豊富にあり、ドラクエのような役を演ずるロールプレイング(RPG)やゴルフなどのスポーツもの、銃器を使って撃ち合うシューティングなどさまざまです。ゲームを始めるときは自分の分身となるキャラクターを作り、そのキャラクターを操作して他のプレイヤーと試合をしたり、仲間と協力して強い敵を倒しながらゲームを進めていきます。また、気のあうプレイヤー同士でチャットをしたり、ギルドと呼ばれるプレイヤー同士の集まりを主宰して交流を深めることもできます。さらに、プレイヤー間でゲーム内で得たアイテムを交換したり、ゲーム通貨を通じて売買する楽しみもあります。 ネットゲームを利用するには、サービスを提供している会社に利用登録をして月額料金を支払いますが、現在では無料でプレイできる代わりに有料アイテムの購入と併用した料金体系が主流になっています。さらに、自宅以外でもインターネットカフェからもネットゲームが楽しめます。インターネットカフェと提携している月額料金制のネットゲームの場合、ネットカフェでは無料でプレイすることができます。
● ネットゲームと仮想コミュニティの違い ネットゲームはセカンドライフのような仮想コミュニティと同一視しがちですが、方向性は異なります。ネットゲームは文字通りゲームという娯楽要素を基本としたサービスで、仮想コミュニティは仮想世界を通じて人との交流に重点を置いたサービスです。たとえば、ネットゲームでは自分のキャラクターを育てることで強さを追求し、他のプレイヤーと競い合うことができますが、仮想コミュニティではそれがありません。また、ネットゲームでは独自の発想で家や店を作りその中でオリジナルの作品を展示するとことはできませんが、仮想コミュニティでは空飛ぶ潜水艦など独創的な作品を作って販売することができます。 ネットゲームは強い敵を倒して珍しいアイテムを入手したり、ライバルと対戦して勝利するといった既成の楽しみ方が最初から与えられています。それに対して、仮想コミュニティでは明確な楽しみが最初から与えられておらず、自分で楽しみを見つけ出さなくてはなりません。いざ利用をはじめても目的意識がなければ興味本位で終わってしまいます。これが仮想コミュニティが発展しない大きな壁となっています。 また、ネットゲームでは課金アイテムと呼ばれるビジネスモデルが確立されています。課金アイテムとは、ゲーム内で使える道具や、衣装、装備を現金で購入できる商品のことです。購入したアイテムを使うとゲーム内で有利にプレイを進められるのでヘビーユーザーは意欲的に課金アイテムを購入し、大きな事業収益につながっています。広告収入と違い、ヘビーユーザーをターゲットとしたビジネス戦略がネットゲーム産業では定着しています。
● ネットゲームを取り巻く諸問題 ネットゲームは楽しさだけを見れば魅力的ですが、実際にプレイしてみないと見えてこない問題を抱えています。中には深刻な社会問題となっているものもあります。
・ 廃人と呼ばれるゲーム中毒の危険性
ネットゲームも人の集まる一種の社交場であるだけに、実生活と同様に集団の一員としての振る舞いが欠かせません。しかし、ネットゲームの矛盾として対人関係や社交性の苦手な人が好む性質が強く、他のプレイヤーに配慮せず自己中心的な考えでゲームを推し進める人が目立ちます。その結果、人との関わりの不得手な人と基本的なマナーをわきまえている人との間でいざこざが後を絶えず、話し合いで解決することができません。注意された腹いせにゲーム上で意図的な嫌がらせをするなど陰湿で悪質な行為に発展することもしばしばです。
・ RMTと呼ばれる現金取引と金銭目当てのゲーム活動
・ 不正ツールの氾濫
・ ハッキングによる盗難犯罪の多発
簡易裁判所からの命令:不正アクセス 男に罰金30万
● ネットゲームはコミュニティとして定着できるか? ネットゲームが誰もが利用しやすいコミュニティとして成り立つためには、運営事業者が率先して健全なゲーム環境作りをすすめていくのが不可欠です。しかし、運営会社によっては一般的な顧客サービスと比較して疑問を持つほどひどく、顧客への対応が消極的で不誠実です。たとえば、ゲーム上でノーマナー行為と呼ばれる社会的・道徳的に好ましくない言動や、モラルを守れないプレイヤーへの制裁措置が一切行われず、やりたい放題の野放し運営をしています。言い換えると、飲食店で従業員は食事だけ出して客が店内で大騒ぎしたり、物を散らかしても一切何もせず、客同士で解決しろという営業をしているのです。ゲーム運営会社は、ゲーム内を監視するスタッフの人員不足や、社会常識に的確な判断のできる人材の欠如、そして社内の事なかれ主義が蔓延しています。そして、皮肉なことにモラルをわきまえないプレイヤーほど多額の課金アイテムを購入する「お得意様」という事情があり、事業運営にとって手放せない大事なお客様となっている現状を抱えています。 このような現状を踏まえると、ネットゲーム会社自身が健全にプレイする顧客を大切にし、サービス業として社会常識に沿った運営をしない限り、ネットゲームは大衆的なコミュニティに飛躍することはできないでしょう。
● 現状ではネットゲームは特異な世界 ネットゲームは娯楽性と課金アイテムによるビジネスモデルが融合した新たなコミュニティとして大きな潜在能力を秘めています。しかし、熱狂的なマニアによる不正行為やゲームを逸脱した金銭目的による接続者の増加、そして 他人の迷惑を顧みないプレイヤーを黙認する運営により特異な世界になっています。気軽に楽しもうとネットゲームを利用したものの、現実とのギャップに興ざめする人も少なくありません。 ネットゲーム会社が目先の利益にとらわれず社会常識を踏まえた運営に転換したとき、ネットゲームは誰もが楽しめる新しいコミュニティとして成長すると考えます。可能性を秘めたネットゲームのコミュニティ、今後どう発展していくのか見守っていきたいです。
2009年11月28日発行 第302号
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