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コラム:匿名という名の暴力(第一回)


 私はネットとの関わりが長く、インターネットはすでに10年以上のつきあいをしています。今では忘れられた存在となったパソコン通信も経験しており、それを含めれば12年以上はネットと関わっています。そのせいもあり、ネットでのコミュニケーションには認識の違いがあります。インターネットをはじめた人は、なんでもが匿名が当たり前という認識をしており、ネットでは隠れて行動するのが基本という人も少なからずいても過言ではありません。
 昨今、インターネット上での匿名掲示板での無責任な書き込みによる人権侵害が深刻な問題として着目されるようになってきました。しかしながら、この問題は取りあげられるには遅すぎるというのが私の率直な意見です。今回はこの匿名書き込みによる暴力と今後どうあるべきかについてコラムを書いてみます。

○ もともとインターネットは実名でやりとりしていた

 「えっ?」って言う人も多いはずです。まだごく一部の研究期間だけで利用していた頃の90年代のインターネットはだれもが本名を使ってやりとりをしていました。もともと研究指向の話題が多く、今のようなビジネスや娯楽要素が全くない本当の開拓段階でした。利用者も少なく悪用を意識する必要性もない頃だからといえばそれまでですが、自分を名乗ることが当たり前といった風潮でした。

○ パソコン通信もIDで書き込みした人の痕跡が残った

 ニフティサーブ(現在の@nifty)は日本の代表的なパソコン通信としてサービスを提供していました。いってみればインターネットのミニチュアといっていいでしょう。特定の話題で情報を交換しあうファーラムは情報の質が高く、議論も白熱していました。このサービスは必ず書き込みした人は利用者IDがつき、また「名無しさん」のようなだれでも同じ名前を名乗らず固有の名前(ハンドル)を使用していました。それもあり、無責任な書き込みにも相応の制裁があり、また各自が大勢の人の前で振る舞う言動を心がけるようにしていました。それだからこそ、人としての節度が維持されていました。

○ インターネットの最大の欠点は利用者の特定が困難

 インターネットの技術上での欠点は、特定個人のIDがなくてもすべてのネット上の機能や資産を利用できることです。特定されないと言うことは、自分を隠すことができる点です。ごく一部の人だけが利用しているときは個人が注意していけばよいのですが、大衆化すればそれを抑制するのが不可能です。一番してはいけない、自分は隠れて人を陥れる言動、行動を平然とする人が多発してしまうのです。

○ 匿名掲示板の存在

 インターネットの技術的欠陥を逆手に応用したのが匿名掲示板です。実は匿名掲示板はインターネット初期の頃にも存在していました。その利用目的は、政治的、思想的な言動が制限されている国家からの利用者が意見や主張を書き込むためのものでした。ところが今では、自分は所在を隠しながら特定個人を名指して中傷したり、プライバシーの暴露や、事実無根のでっちあげをするなど、社会通念上許されない行為をする場になっています。匿名だからこそできるすばらしいこともあると主張する人もいるでしょうが、それ以上に人を精神的に追い込み病気になるなどの惨状が多いのが現状です。名誉毀損罪、あるいはそれに準ずるような人権侵害を平然としても罪意識のない人が多いのが問題です。

○ 法的手続きの難しさ

 では、もし自分が匿名がまかり通る場で誹謗中傷されたらどうするでしょうか?運営者の管理が野放図であれば削除は困難です。プロバイダをつきとめて書き込みした人へ通告依頼をするにも痕跡がなければ不可能です。となるともはや弁護士を通じて法的措置を執ってもらうしかありません。しかしながら法的手段は労力と費用がはかりしれず、仮に示談や和解に至ってもそれに見合った報いは得られないでしょう。

○ 自分は無関係ではなくなる

 ここまで読んで、いつも掲示板に書き込むことはないし、ホームページやブログを読んでいるだけだからこんな出来事に巻き込まれはしないなどと楽観的に思っていたら大間違いです。なぜなら、日常生活上の出来事がそのまま誰かに暴露されるからです。悪質な書き込みのきっかけはインターネット上での出来事とは限りません。突然、同僚から「この書き込みの内容ってもしかして君のことか?」と知らされ、その書き込みがどんどんエスカレートして不本意な中傷に発展するかもしれません。このようなエスカレートした事態に巻き込まれる危険はけっして他人事ではないのです。そのことを十分認識しておくのが重要なのだとぜひ理解してほしいのです。

 長くなりましたので、続きは第二回に持ち越します。


2005年 11月29日発行 第254号

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