特集:多発する大量メール配信事故
今週はお気楽な内容を取り上げる予定でしたが、シリアスな特集を組みました。最近、インターネット上で顧客などに向けた大量メール配信に配送トラブルが生じ顧客のメールボックスに何百通ものメールを配送させてしまう事故が多発しています。テレビのニュースにも報じられており、自分にもいつその被害がおよぶかわかりません。こうした、特定多数へのメール配信の問題点についてクローズアップしてみます。
○ 大量メール配送の不測の事故とは
ここでいう大量メールとは、オンラインショップや取引先が顧客へニュース配信や新製品情報をメール配信するものです。業務上のメールでは、一度に何百ものメールアドレスに同じメールを配送することも今では珍しくありません。しかしながら、これが予期せぬトラブルを巻き起こすようになっています。配送メールのシステムにメーリングリストを導入して、配送側の設定不備がもとで返信や不達メールまでも登録者全員に再配送し、これが繰り返されていくうちにすべての登録者に何百通もの不要なメールを送りつける事故となっているのです。
こうしたトラブルの症状は次のようなものがあります。
- 配送メールに登録されている人が「メール不要」と返信をしたところ、そのメールが配信元ではなく登録者全員には送られ、同じようなメールを誘発するというもの。これがエスカレートして、暴言が流れたり、ウイルスなどデマまで流れ、さらに混乱を巻き起こします。こうしたメールが大量に登録者全員に送られてしまい、たちまちメールボックスがあふれてしまうという事態に発展します。
- 配信エラーのメールも登録者全員に送られてしまう。見に覚えのない英語のメールに困惑して、問い合わせの返信をしては同じようなメールを誘発し混乱を招きます。
- 上記のエラー配信の最も問題となるのが、配信されなかったメールが返送後再度不達アドレスに送信され同様に配送エラーが繰り返されるピンポンメールの発生です。これが登録者全員に配送され、メールに異常が発生したとばかりパニック状態に陥ります。
- 配送元のアドレスに登録アドレス外からでもメールが送れる設定になっていると、いたずらでデマやダイレクトメールを送信し悪用される被害をもたらします。
- 登録アドレスの中に自動返送する設定がされていると、その返送メールまで登録者全員に送られ、ひどいときは配送メールが転送と返送を繰り返すピンポンメールを引き起こします。当然、メールボックスはあっと言う間にあふれかえります。
では、なぜこのような事故が起きてしまうのでしょうか?原因のひとつとして、大量のメール配信にメーリングリストのシステムを使い、一方向型のメール配信に必要な設定を施さずに利用しているためです。メーリングリストのシステムを、原理を十分理解せずに、大量配信が簡単にできる便利なツールと勘違いしていると大きな事故になりかねないのです。すなわち、導入側に技術的知識が不足していると、結果として大勢の人に迷惑を与える原因になってしまうのです。
メーリングリストは登録してある人に一度に同じメールを配信できます。しかし、それだけでは理解不足で、今回のような事故につながる危険があります。メーリングリストの配信で重要なのは、登録者であれば誰でもメールの一斉配信が可能である点です。これを認識せず、メールを出すのは配信元だけができるもの(あるいはするもの)という甘い意識でメーリングリストシステムによる大量配信を行なえば、遅かれ早かれ事故を引き起こすでしょう。
○ 導入側の注意点
こうした事故を防ぐには導入側に十分な知識と技術力のあるスタッフを整えてから実施しなければなりません。メール配信は簡単にできるという安易な考え方が取り返しのつかない問題を起こすと言ってもよいくらいです。メーリングリストによる配信を行なう場合であれば次の点はおさえておく必要があります。
- メーリングリストの基礎知識を必ず理解しておく。基本設定の場合、登録者であれば誰でも全員にメールが送れる点は必ず知っておかなくてはなりません。
- システム導入など技術的知識のあるスタッフが常時待機していること。特に、メーリングリストに関する知識は必要最低限備わっていなければなりません。
- メーリングリストを配信専用にするには別途設定が必要です。基本設定のまま使用してはいけません。以下の項目を確実に設定しなければなりません。
- メールを送信できるアドレスを限定する。それ以外のアドレスからの配送は受け付けない。
- 返信メールのあて先を担当者専用のアドレスに設定する。
- エラーによるメールの返送先アドレスも同様に設定する。
- 登録外アドレスからの送信メールは配送されないようにする。
- メール配送を行なう際は、以下の配慮を心がけてください。
- 金曜日や祝日前には行わないこと。トラブルなど異常事態が発覚するのは翌日からとなり、その対応が休日不在であれば被害が拡大するばかりである。
- 配送日翌日はトラブル発生に備え技術スタッフはサポート体制を整える。
- 配信メールに解除(脱退)方法を明記すること。
特に重要なのは
- 相手の同意なしにメール配信を行なわない。何らかで告知をして相手の意志を尊重すること。
- 電子メールやインターネットの基本的なしくみを理解しないでメール配信を行なわないこと。インターネット全体に被害を及ぼす危険があります。
- 事故が起きても顧客側のせいにしないこと。根本は配信を行なったシステム不備にあり、それは導入側に責任があります。
- 事故が起きたら、ホームページ上で事故の現状と対策を逐一アナウンスする。
- メールを受けとる側は、ネットワーク初心者が大勢いることを忘れないこと。配送を受ける側に個別対策をとらせるのは困難であり、反発と混乱を招きます。
○ 配信者側の対策
初心者にとって、大量のメールがいつまで経っても止まらない状態が続けばパニックになります。業務に差し支えてしまえばなおさらです。しかしながら、まず冷静になるのが大切です。特に、デマに惑わされないようにするのが肝要です。
- 意図しないメールが大量に届き、「停止してください」といったメールが流れても同じようなメールを絶対に送らないこと。これが連鎖反応の始まりで、さらに状況を悪化させます。
- 同じアドレスから大量にメールが来ても、自分のメールソフトに異常をきたしていません。ほとんどの原因は配信元に問題があり、メールソフト側で解決はできません。
- 暴言を吐いたメールも流れますが、自分もそれに荷担しないこと。腹の立つ思いは十分わかりますが、それが大勢の人をさらに不愉快にさせます。
- 「コンピュータウイルスに感染した」といったデマに惑わされないこと。大量のメールが送られてきたからといってもウイルスとは無関係です。
- 解除方法など対策が流れたら、すみやかに手順通りに手続きしてください。ボランティアで教えてくれる人もいます。
- 身近に技術的知識の詳しい人がいれば相談するとよいでしょう。その方が早期打開策につながるときもあります。
メール配信の事故は配信側に大きな責任があります。とはいえ、結果としては不幸ながらも登録者が事態を拡大させてしまうのです。本来あってはならないトラブルですが、冷静な行動を関わっている人全員がとらなければなりません。今後、発生率が高まると予想される大量メール配信の事故、配信する側に慎重な行動を求めたいところです。
2000年10月14日発行 第32号
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