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コラム:IT企業に多い「させていただきます」の乱用と研修の責務


 ショッピングサイトやポイントサイトからのメールやウェブサイトを読んでいると、あたりかまわず文末に「〜させていただきます。」と締めくくる文章が数多く見られます。しかも、「させていただきます」の適切な使い方を知らずに、板に判を押したマニュアル通りの言い回しをしているようで違和感を覚えます。

 こうした「させていただきます」の乱用は従業員の平均年齢が若いIT企業のサイトで多くみかけます。とりわけ20代の社員が十分な社内研修を受けずに業務に従事し、相手に対してかしこまった、あるいは丁寧なビジネス用語と解釈して使っているようです。また、若い世代の間では応対や面接の際、語尾に「させていただきます」とつけないと自分自身が安心していられない「させていただく症候群」が広がっており、誤用に拍車をかけています。

 今回のコラムは、「させていただきます」の使い方をふまえ、昨今のIT企業に多い言葉の乱れと社内の研修・業務体制への危惧について述べます。

「させていただきます」 の誤った例

 よく見かけるのが次のような表現です。

    問い合わせメールの返答で
    → ご質問の件についてご回答させていただきます。

    サービス障害の経過報告で
    → 先日発生したシステムの不具合についてお知らせさせていただきます。

    新商品の紹介で
    → 来週から発売の新商品についてご紹介させていただきます。

 「させていただきます」の本質的な意味をわきまえずに自分勝手な解釈をして用いれば、相手に不快感を与えるだけでなく不作法な敬意を押しつけるため慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度となり失礼に当たります。当事者はこのような状況を招くことに気がつかなければなりません。

● 「させていただきます」の使い方

 「させていただきます」は慣れている人でも誤用しがちな難しい表現です。私自身、むやみに使わないよう気を遣っているほどです。

 「させていただきます」は使役動詞の「させる」を基本とした敬語の中の謙譲語です。謙譲語なので、上の立場の人が下の立場にへりくだって述べるときに用います。「させていただきます」の言葉の意味を知らずに使っている人は謙譲語とは認識していないと思います。それ以前に厳しい言い方になりますが、この言葉が敬語であることすらまったく理解していないのではないでしょうか。

 明確で論理的な規定はないのですが、「させていただきます」は次のような時に使います。

・ あらかじめ同意があったとき

 窓口の応対で

    係員:「身分証をコピーしてもよろしいですか?」
     客:「はい、どうぞ」
    係員:「では、コピーさせていただきます。」
・ 申し訳ないという意志を表して使う

 プレゼントの当選案内で

    当選は賞品の発送をもってかえさせていただきます。
・ 上司や先輩から依頼されたことを積極的に請け負うとき
    上司:「例の案件、君に頼んでもいいかな?」
    部下:「はい、ぜひともやらせていただきます」
 ほかにも使えるパターンはありますが、私は上記3つの場合くらいしか「させていただきます」は使わないようにしています。「させていただきます」の使い方についてわかりやすく解説しているページがあありますので、一読をおすすめします。

 では、冒頭に挙げた例をもう一度振り返ってみます。

  1. ご質問の件についてご回答させていただきます。
  2. 先日発生したシステムの不具合についてお知らせさせていただきます。
  3. 来週から発売の新商品についてご紹介させていただきます。
 1は回答への事前の同意はなく、別に申し訳ないことでもありません。まして、質問者と回答者の間に身分上の上下関係はありません。仮に、売り手と買い手であっても上下関係はありません(お客様は神様という考え方はあくまでも売り手側の姿勢に過ぎません)。さらにいえば、解釈によっては「質問されたから回答させてもらうよ」と相手を見下した態度にもなるため無礼な表現になります。したがって、ご回答させていただきますというのは不適切です。しかも「ご回答」の「ご」と「させていただきます」は二重敬語で同時に使うことはできません。

 2の「お知らせさせていただきます」は根本的に文章自体がおかしいです。「知らせていただく」ならありますが、「お知らせさせる」という言葉はありません。この場合も、不具合についての状況を知らせるのは申し訳ないことではありません。申し訳ないのは不具合を起こした事態です。したがって、このような状況で「させていただきます」は不適切です。

 3の「紹介させていただきます」はおかしくないように見えますが、紹介する行為は相手の同意を得ず一方的に行おうとしており、申し訳ないという意図は最初からありません。自分が下の立場にへりくだる状況ではないので、謙譲語を使う必要がありません。そえゆえに、「させていただきます」と書くのは不自然です。

 このように、「させていただきます」は使い方をわきまえずにむやみに乱用すると読み手に違和感を与えます。むしろ使わない方がきちんと伝わります。単に「です・ます」調にすれば全く問題ないのです。

  1. ご質問の件について回答いたします。
  2. 先日発生したシステムの不具合についてお知らせします。
  3. 来週から発売の新商品についてご紹介いたします。

 です・ます調は敬語のひとつである丁寧語なので礼儀正しい表現です。そっけなく軽々しい表現だと感じるならばそれは思い違いです。

● 言葉尻だけで表現する風潮の蔓延

 最近特に気になるのは、自分自身が使ったこともない言葉をいかにも見栄えのよい表現だと思い込み、適材適所をわきまえずに乱用する風潮です。こうした風潮が露骨に現れるのが「させていただきます」に代表される敬語表現です。敬語は日頃から口に出して使わないと身につきません。インスピレーションや直感に頼った言葉遣いば相手に失礼な態度を表し、周囲から厳しく叱責されます。本来なら上司や先輩社員から言葉遣いの誤りを指摘されたり、下書きの段階で校正や添削を受けるはずです。しかし、それがおざなりになっているとでたらめな表現を平然と使い続け、悪しき風潮がますます広がっていきます。それは社会全体に言葉の乱れを氾濫させる要因につながります。

● IT企業に目立つ言葉の乱れの軽視

 敬語に限らず、ここ数年で言葉の乱れが急激に加速しているように感じます。特に規模の小さいIT企業からのメールやサイト内の文章で言葉の乱れが目立ちます。このような企業ではとりわけ20代の若手社員がメールでのサポートや広報の作成といった顧客と直接接点のつながる業務に従事している場合が多いはずです。しかし、若い世代ほど小さい頃から会話でのやりとりよりも、メールによる顔をあわせないコミュニケーションの習慣が身についています。その際、きちんとした文章ではなく単語や絵文字を羅列して用件を伝えているために、的確な文章表現の基礎が身についていません。社内に敬語や言葉遣いを熟知している経験豊富な上司が監督していれば、不適切な表現をチェックして指導できますが、若い世代同士で運営している企業ではそれができていません。もし、若手社員が顧客や取引先あてに送信したメールの文面をチェックする社内体制が整っていなければ言葉の乱れに気づいて改善する機会がありません。不適切な言葉遣いで相手にメールを出し続けていれば、意思疎通の不一致でトラブルや事故が多発しかねません。

● IT企業にとって日本語表現の研修は大きな課題

 若い世代では、言葉の乱れだけでなく自分の伝えたいことを頭の中で整理して表現する「言語力」の低下が深刻化しています。当たり前のように書ける簡単な文書作成もままならない事態がすぐそこまで迫っていると言われています。メールサポートなどの実務を十分な研修もせずに新人に従事させることは業務に思わぬ支障をきたしかねません。特に若い年代で運営しているIT企業はこの問題を真剣に受け止めてほしいと願っています。新入社員の研修ではきちんとした文章の作成と適切な言葉遣いを指導し、常に送信メールはCCで先輩社員に送ってチェックできる体制作りの徹底を切望します。それは昨今問題とされている言葉の乱れを是正する社会貢献にもつながります。研修に十分な時間と労力を裂けないといった理由でおざなりにすれば、いずれ自社の首を自ら絞める結果になります。ネットを生業とする企業は文字でのコミュニケーションが最も大切な技能であり、軽視してはなりません。

 「させていただきます」に限らず、他にも不自然な日本語表現をネット上で数多く見かけます。社員一人一人が適切な言葉を身につけなければ会社の看板に泥を塗ることにもつながります。今回はIT企業に焦点を当てていますが、大手企業でも同様の光景をしばしば見かけます。敬語に限らず人前できちんと使える言葉を習得できる研修体制は今後一層重要になるでしょう。

 追記:日本語表現について、参考になるよいページを見つけましたので紹介します。


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2010年2月23日発行 第305号


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